留学の保険は住民票を抜くかで変わる
留学の見積書に「海外留学保険」が入っていることがあります。
それが要るかどうかを決める前に、日本の側で何が残るのかを見ます。残るものと残らないものは、住民票をどうするかでほとんど決まります。
国民健康保険は住所で決まっている
国民健康保険法5条は、被保険者をこう定めています。
都道府県の区域内に住所を有する者は、当該都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険の被保険者とする。
条件は住所です。だから住民票を海外へ移すと、この条文の「住所を有する者」から外れます。そうなると資格がなくなるので、保険証も使えません。
住民票を抜く手続きは住民基本台帳法24条にあります。
転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない。
読みどころは「あらかじめ」のところです。出てから出す形にはなっていません。
会社の健康保険は住所で切られない
一方、会社に勤めたまま留学する場合は別です。健康保険のほうは、その会社に使われていることで決まるので、住所の話が出てきません。休みをもらって籍が続いていれば、住民票を抜いても資格は残ります。
国民健康保険に入っている
- 住民票を抜くと資格を失う
- 住民票を残せば資格は続くが、保険料も続く
- 住民税や年金の扱いも同じ届出で動く
勤め先の健康保険に入っている
- 住所ではなく勤め先との関係で決まる
- 休職して在籍が続けば資格は残る
- 退職して行くなら、その時点で資格を失う
国民健康保険は住所で決まり、会社の健康保険は勤め先との関係で決まる
学生で親の扶養に入っている場合も、後者に近い形になります。扶養に入っているかどうかは、親の勤め先の健康保険組合が判断します。
海外で受けた医療に出るのは「療養費」
資格が残っていれば、海外で受けた医療にも給付が出ることがあります。根拠は健康保険法87条1項です。
保険者は、療養の給付若しくは入院時食事療養費、入院時生活療養費若しくは保険外併用療養費の支給(以下この項において「療養の給付等」という。)を行うことが困難であると認めるとき、又は被保険者が保険医療機関等以外の病院、診療所、薬局その他の者から診療、薬剤の支給若しくは手当を受けた場合において、保険者がやむを得ないものと認めるときは、療養の給付等に代えて、療養費を支給することができる。
海外の病院は保険医療機関ではないので、後ろのほうの場合にあたります。国民健康保険にも同じ形の条文があって、国民健康保険法54条が療養費を定めています。
読みどころは「保険者がやむを得ないものと認めるとき」で、判断するのは保険者です。文末も「支給することができる」で、当然に支給されるという書き方ではありません。
出る額は日本の基準で頭打ちになる
額の決まり方は87条3項にあります。日本で同じ治療を受けたらいくらかを出して、そこから自分で払う分を引いた額がもとになります。そして最後にただし書きが付きます。
ただし、その額は、現に療養に要した費用の額を超えることができない。
実際に払った額を超えては出ません。逆から見ると、日本のもとの額より現地の医療費が高いとき、その差は戻ってきません。
医療費が日本より高い国では、この差が大きくなります。公的な給付が残っていても、あふれた分は自分で持つことになります。民間の保険を考える理由はここにあります。
手続きは同じ窓口でまとめて動く
住民票を抜くと決めた場合、市区町村の窓口で動くものが並びます。
- 転出届(住民基本台帳法24条。出発前に出す)
- 国民健康保険の資格喪失。保険証を返す
- 国民年金。海外に住む間は強制加入から外れ、任意で続けるかを選ぶ(留学中の国民年金は続けるかを選ぶ)
- 住民税。1月1日に住所があるかで翌年度の課税が決まる
住民票を残すと決めた場合は、保険料も住民税も続きます。どちらが得かは滞在の長さと収入で変わるので、金額を並べてから決めます。
帰ってきたときは14日以内
抜いた住民票は、帰国したときに戻します。住民基本台帳法22条1項です。
転入(新たに市町村の区域内に住所を定めることをいい、出生による場合を除く。以下この条及び第三十条の四十六において同じ。)をした者は、転入をした日から十四日以内に、次に掲げる事項(いずれの市町村においても住民基本台帳に記録されたことがない者にあつては、第一号から第五号まで及び第七号に掲げる事項)を市町村長に届け出なければならない。
出るときの転出届が「あらかじめ」だったのに対し、こちらは「転入をした日から十四日以内」です。入るときだけ期限が日数で切られています。
この期限が効くのは、国民健康保険の資格が転入届とつながっているからです。5条の「住所を有する者」に戻るのは住まいを決めた日ですが、届け出るまで市や区はそれを知りません。届出が遅れると保険証が届くのも遅れます。
帰国してすぐ通院する予定があるなら、空港から先の順番を決めておくことになります。届出の前にかかった医療は、いったん全部を払って後から請求する形になります。
マイナンバーカードがあると、添える書類が変わる
転入届には原則として書類を添えます。22条2項です。
前項の規定による届出をする者(同項第七号の者を除く。)は、住所の異動に関する文書で政令で定めるものを添えて、同項の届出をしなければならない。
いわゆる転出証明書のことです。ところが24条の2第1項が、この2項を外す場合を置いています。
個人番号カードの交付を受けている者が転出届(前条の規定による届出をいう。以下この条において同じ。)をした場合においては、最初の転入届(当該転出届をした日後その者が最初に行う第二十二条第一項の規定による届出をいう。以下この条において同じ。)については、第二十二条第二項の規定は、適用しない。ただし、政令で定める場合にあつては、この限りでない。
個人番号カードを持ったまま転出届を出していれば、帰ってきたときに転出証明書を添えなくて済みます。出るときにカードを返してしまうと、この特例は使えません。
ただし期間の制限があります。同じ条の4項です。
転入予定地市町村長は、第一項又は第二項の規定による転出届をした者が当該転入予定地市町村長に最初の転入届又は最初の世帯員に関する転入届(次項において「最初の転入届等」という。)をすることなく、前項の規定による通知があつた日から政令で定める期間が経過したときは、同項の規定により通知された事項を消去しなければならない。
転出のときに送られた情報は、政令で定める期間が過ぎると消去されます。留学が長引いて帰国が遅れると、この期間を越えることがあります。越えた場合でも転入届は出せますが、書類の扱いは窓口で確かめることになります。
なお22条1項7号は「国外から転入をした者」を別に挙げていて、その場合に届け出る事項は政令で決まります。国外からの転入は、国内の引っ越しと同じ扱いではありません。
保険の書類は、契約の書類と別に読む
留学の見積書では、授業料もあっせん手数料も保険料も1枚に並びます。留学の費用は誰に払うかで分けるで分けたとおり、払う相手が違います。
保険はエージェントでも学校でもなく、保険会社との契約です。やめたときにどこまで返るかも、その保険会社の約款で決まります。エージェントとの契約を解約しても、保険が自動で解約されるとは限りません。
代理店を兼ねているエージェントもある
エージェントが保険会社の代理店を兼ねていることがあります。このサイトが載せているウィッシュインターナショナルは、会社概要の主な事業内容に「損害保険代理業」を挙げ、損害保険代理店として AIG損害保険株式会社の名前を出しています。登録は観光庁長官登録旅行業 第1361号です。
代理店を通して申し込んでも、保険の契約の相手は保険会社のほうです。窓口が同じでも、解約や請求で向き合う相手は別になります。保険証券に書かれている引受会社の名前と連絡先は、留学の契約書とは別に控えておくことになります。
契約そのものの解除については短期留学は2か月を超えるかで変わると語学スクールの中途解約と返金の上限に分けて書きました。契約でもめたときの相談先は、消費者ホットライン 188 です。
まとめ
- 国民健康保険は住所で決まる(国民健康保険法5条)。住民票を抜くと資格を失う
- 転出届は「あらかじめ」出す(住民基本台帳法24条)
- 勤め先の健康保険は住所で切られない。休職して在籍が続けば残る
- 海外で受けた医療に出るのは療養費で、保険者が認めたときに支給できるという書き方
- 額は国内の基準が上限。現に払った額も超えない。差額は自分で持つ